令和時代の高齢者像──ITエンジニアが当たり前になる未来へ

昭和の時代、高齢者といえば、縁側でお茶をすすり、孫の遊び相手になるような穏やかな存在というイメージが一般的でした。多くの人が定年退職後は畑仕事や趣味に興じながら余生を過ごし、テレビを見ながら孫の成長を見守るといった「静かな老後」が理想とされていました。

しかし、令和という時代において、その高齢者像は確実に変わろうとしています。今や60代、70代でも現役でパソコンを駆使し、スマートフォンを使いこなし、SNSで情報発信をする人が増えています。中には、退職後にプログラミングやウェブ開発を学び、第二の人生をITエンジニアとして歩み始める人もいます。

この変化は単なるライフスタイルの違いではなく、社会構造そのものの大きな転換を意味しています。この記事では、「昭和の高齢者」と「令和の高齢者」の違いを整理しながら、これからの高齢者に求められる「学び直し（リスキリング）」や「社会参加」のあり方について掘り下げてみましょう。

1. 昭和時代の高齢者：アナログ社会の中の“静寂な老後”

昭和の日本は、高度経済成長期のただ中でした。企業戦士と呼ばれたサラリーマンが、身を粉にして働き、60歳で定年を迎えたあとは「老後の楽園」が待っているというのが一般的な価値観でした。退職後は、趣味や家族との時間を優先し、社会との接点は徐々に減少していく。デジタルとは無縁の、テレビ、新聞、ラジオが情報源の中心でした。

この時代の高齢者像には、安定と安心感がありましたが、一方で孤立や情報格差というリスクも抱えていました。社会との接点が薄くなるにつれ、認知症やフレイル（加齢に伴う虚弱）のリスクも高まっていたのです。

2. 令和時代の高齢者：デジタル時代を生き抜く“アップデート世代”

時代は変わりました。団塊ジュニア世代が高齢者の仲間入りを始める令和時代は、「初めてパソコンに触れた世代」「インターネットの普及を体験した世代」「スマホを標準装備とする世代」が中心となります。つまり、ITリテラシーのある高齢者が、これからは「普通」になるのです。

例えば、定年後にYouTubeチャンネルを開設して趣味の園芸を発信する人、WordPressでブログを立ち上げて自分の経験や知識を記録・公開する人、副業としてIT関連の仕事を受注する人……。もはや、高齢者だからといって「受け身」になる時代ではなくなりました。

NHKの『のど自慢』で、50代の出演者がプリンセス・プリンセスの「Diamonds」を歌っている光景は象徴的です。若者だった昭和末期の人々が、いまや中高年となり、かつてのポップカルチャーを体現する側にまわっているのです。言い換えれば、「若さの延長線上に高齢がある」時代になったのです。

3. ITに詳しい高齢者が「普通」になる社会の意味

高齢者がITに詳しくなることは、個人にとっても社会にとっても非常に大きなメリットがあります。

◯ 情報弱者にならない

医療、行政、生活インフラがデジタル化している現代において、スマホやパソコンを使えないことは、情報格差を生む大きな要因です。ITリテラシーがあることで、オンラインでの医療予約、キャッシュレス決済、災害情報の収集などがスムーズに行え、安心して暮らせます。

◯ 孤立しない

SNSやビデオ通話によって、遠くの家族や友人と簡単につながることができます。趣味のグループにオンラインで参加したり、地域の情報をFacebookなどで得たりすることが可能です。これは、孤独死や高齢者のうつ病予防にもつながります。

◯ 収入源を確保できる

高齢者が自身の知識やスキルを活かして、オンライン講師やライター、デジタル商品の販売などに取り組むこともできる時代です。年金に頼らず、自分の力で収入を得ることは、大きな自信や生きがいにもつながります。

4. 高齢者が学ぶべきスキルとは？

それでは、これからの高齢者が身につけておきたいスキルとは何でしょうか。以下に具体的なリストを紹介します。

スキル	活用例
スマホ操作	LINE、地図、買い物、写真撮影など
パソコンの基本操作	文書作成、表計算、メールなど
SNSの活用	情報収集、交流、発信
動画・音声ツールの活用	Zoom、YouTube、ポッドキャストなど
デジタル金融リテラシー	ネットバンキング、キャッシュレス決済
自分メディアの運営	ブログ、YouTube、電子書籍の出版など

特に「自分の経験をコンテンツ化する」力は、元教師、元技術者、元経営者などのバックグラウンドを活かす絶好の手段です。

5. 「老後」ではなく「後半戦」としての人生設計

令和時代においては、「老後」という言葉すら、時代錯誤になりつつあります。平均寿命が伸び、70代80代で新しいことに挑戦する人が増えている今、定年はゴールではなく、「第二のスタート地点」にすぎません。

若いころにできなかったことに挑戦する。新しい技術を学び、次の世代に伝えていく。「社会から必要とされ続ける存在」であることこそが、これからの高齢者像といえるでしょう。

おわりに：今こそ「アップデートする高齢者」に

私たちは今、歴史上初めて「ITを使いこなす高齢者が多数派になる」時代に生きています。それは、社会の高齢化が進む中でも、高齢者が主体的に情報を選び、発信し、参加することができるという希望でもあります。

「もう年だから」ではなく、「まだ学べる」「まだ社会に貢献できる」と考えられるかどうかが、今後の人生を大きく左右するでしょう。

あなたも、自分の人生の“後半戦”をデジタルとともに再設計してみませんか？ そしてその姿を、次の世代に見せていくことが、未来の社会を明るく照らす力になるはずです。