和歌山県ツキノワグマ──「保護」から「管理捕獲」へ。30年で何が変わったのか?

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最近、和歌山県がツキノワグマの方針を「保護」から「管理(管理捕獲)」へ切り替える動きを示しました。

これは、紀伊半島に生息するクマ個体群の推定数が環境省の管理基準(約400頭)を超えたことが直接の理由です。では、30年前と比べて何がどう変わったのか――数字と現場の声で読み解きます。

1)30年での変化:個体数はどう増えたか?

  • 1998年(平成10年度)の調査では、紀伊半島のツキノワグマ推定生息数は約180頭とされ、絶滅のおそれがあるとして「保護」政策が採られてきました。
  • 直近(令和6年度)に環境省と紀伊半島3県(三重・奈良・和歌山)が実施した再調査では、推定生息数は約467頭と算出され、管理基準の400頭を上回ったため、管理段階に移行する判断が示されました。

簡単に言えば、約30年で「約180頭」→「約467頭」へ増加し、個体群の規模が大きくなったことが方針転換の決め手になっています。

2)なぜ増えたのか?背景にある要因

個体数増加には複数の要因が重なっています。環境省や各県の資料、学術的な整理から考えられる主因は次の通りです。

  • 保護政策の効果:過去数十年で「保護」中心の管理が続いた結果、自然繁殖により個体数が回復した側面。
  • 餌資源と環境の変化:里山や低標高域に餌(果実・農作物・外来種の実など)が増え、クマの分布が低地へ広がった。
  • 人里近接化の進行:森林の利用形態や放置地の増加で、人間生活圏に近い場所にもクマが定着しやすくなった。
  • 検知技術の向上:カメラトラップ調査やモニタリングが増え、以前は見逃されていた個体が確実に把握されるようになった面も。

これらが複合し、「個体数の実際の増加」と「把握精度の向上」が合わさって推定数が上昇したと理解できます。

3)管理捕獲とは何を意味するのか?和歌山県案のポイント

和歌山県が示した「第二種特定鳥獣(ツキノワグマ)管理計画(案)」の要点は次の通りです。

  • 個体群を「紀伊半島地域個体群」として捉え、三重県・奈良県と連携して管理する。
  • 生息数推定に基づき、捕獲上限数を設定して個体数の安定化を図る(上限はガイドラインに基づき決定)。
  • 人の生活圏への出没が顕著な区域や被害個体に対しては、選択的に捕獲を実施するゾーニング(人里重視ゾーン等)を導入する方針。わかやま新報

重要なのは、「無差別に殺す」方針ではなく、エビデンスに基づいた個体数管理(上限設定)と三県連携の下での選択的対応を目指している点です。県は策定後も定期的に生息頭数調査を継続すると明記しています。

4)現場の声――住民・農家・猟友会の反応

パブリックコメントや地元紙の取材から、現地での反応は大きく分かれています。主な傾向を紹介します。

  • 不安・安全重視の声:人里への出没増加を受けて「住民の安心・安全を最優先にしてほしい」との強い求めが多数寄せられています(子ども・高齢者の安全確保の観点)。
  • 乱暴な捕殺への懸念:一方で「安易な捕殺には反対」「個体数の推定方法や科学的根拠を示してほしい」といった慎重意見も多く、公的パブコメでは詳細な質問が出されています。
  • 現場(猟友会等)の負担感:捕獲・箱わな回収・被害対応の実務は地域の負担が大きく、管理方針の明確化と財政的支援を求める声が出ています。わかやま新報

このように、住民の安心確保とクマを含む自然保全の間で意見が分かれており、地域合意づくりが重要な課題です。

5)今後のポイント(住民・行政・研究者に向けて)

  1. 継続的なモニタリングを行い、推定値の精度を高めること(カメラトラップ・遺伝子解析の活用)。
  2. 三県連携の運用ルールを整備し、ゾーニングや捕獲基準を透明化すること。
  3. 農林業被害対策と住民の安全対策の両立(電気柵助成、わな・箱わなの管理、通学路対策等)。
  4. 地域住民への丁寧な説明と参加機会(パブコメや説明会の拡充)で合意形成を図ること。

まとめ

紀伊半島のツキノワグマは過去30年で確かに増加し、かつ分布が人里に近づいてきました。

その結果、「絶滅の恐れがあるから保護する」時代から、「地域の安心・安全を確保するために個体数を管理する」段階へと政策転換が起きています。重要なのは、科学的根拠に基づく管理と、地域住民の納得を得るための透明な手続き・支援です。感情論に流されず、データと現場の声を両輪にして進めることが求められます。