広辞苑はいまどうなってる?昭和の分厚い辞書の現在と、辞書の未来を徹底解

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「昭和時代に“分厚い辞書”、たとえば 広辞苑 が家庭や学校に置かれていたあの光景――では、令和の現在、辞書はどうなっているのか。
辞書を出している出版社は元気に活動しているのか。そして、辞書というものがこれからどうなるのか。――今回はこの問いを出発点に、辞典の現状と未来を考えてみたいと思います。
1.昭和の「分厚い辞書」の時代
まず、いわゆる“昭和時代”を振り返ると、辞書は「家庭の書棚にある重厚な辞典」というイメージが強くありました。特に「国語辞典」の代表格として、広辞苑はその象徴とも言える存在でした。
たとえば、広辞苑は最初の刊行が 1955 年5月25日。 以来、版を重ね、10年ごとを目安に改訂されてきたという歴史があります。 また、累計のおおよそ発行部数は「1100万部」などと紹介されており、まさに「国語辞典=広辞苑」という時代の一端を示しています。
当時、紙の辞書を「どのページにも索引があり、語句を引く」ための道具として、あるいは学習・調べものの基本ツールとして使うことは一般的でした。教育現場でも「辞書を引く習慣」が重視され、教師としても「辞書を使わせる」ことが一つの指導目標になっていたかと思います。
その背景には、インターネットが無い、スマホも無い、日常生活で「手元で一瞬で意味を調べる」手段が限られていたという環境がありました。こうした条件の中で、「辞書(紙)を買う」「辞書を引く」という行為には一定の価値と意味がありました。
2.令和時代の辞書、そして出版社の状況
では、令和の現在、例えば 2020年代中盤になって、辞書はどうなっているのか。まず、広辞苑を例に見ると、次のような状況があります。
(1)紙版+電子版への移行の動き
広辞苑の最新版「第七版」は 2018 年に刊行されました。 この版では、紙の辞書としての体裁を保ちつつ、電子版・アプリ版・収録辞書コンテンツとしても提供されており、「紙+デジタル」のハイブリッドな形態になってきています。たとえば、アプリ版のレビューには「信頼性と全文検索が便利」といった声がある一方で、「UI(ユーザーインターフェース)が古い」「手書き入力ができない」といった不満もあります。
さらに、辞書出版・電子辞書および辞書アプリをめぐる技術・媒体の変化についても、1990年代から2010年代にかけて「電子辞書端末」「モバイルアプリ」「ネット辞書」へと進化してきたという報告があります。
こうして、出版社側も紙だけではなくデジタルへの対応を模索しているのが現状です。
(2)出版業界全体としての厳しい環境
ただし、辞書だけではなく出版業界そのものに「出版不況」という言葉が当てはまる状況があります。日本の出版市場規模は1996年をピークに縮小傾向にあり、紙媒体の売上減少が続いています。
さらに、辞書というジャンルに限定して見ても、「大人向け紙辞典」の需要は激減しており、ある辞書編集者の論文では「唯一元気なのは子供向けの辞典市場だ」などの指摘もあります。
このことから、紙の辞書を作って売るという従来モデルは、少なくとも過去ほど安定しているわけではないことが見て取れます。
(3)ユーザーの声も交えて
少しユーザーの声を拾いましょう。アプリ版「広辞苑第七版」について、以下のようなレビューがあります:
「UIが悪くて素早い検索の支障となっている。このレベルで改良を止めたのはひどい」
「信頼性と強力な全文検索。言葉の定義がわからなくなったらやっぱり頼れるのはこれです」
つまり、辞書そのもののブランド力・語釈の信頼性にはまだ期待を寄せている一方で、デジタルの使い勝手や更新頻度・アプリ機能といった面で「もう少し改善してほしい」という声も見られます。
また、あるレビューでは「高額を支払ったのにと思うと腹立たしさを覚えます。…広辞苑は紙からアプリへの移行に大失敗しています」など厳しい意見も。
こうした声からは、「辞書ブランドは守られているが、媒体・サービスとしての転換が思ったよりスムーズではない」という現実も読み取れます。
(4)出版社・辞書ブランドの“元気さ”
では、「出版社は元気か?」という問いに対しては、「ある程度元気であるが、従来通りのビジネスモデルでは十分とは言えない」というのが現状ではないでしょうか。
例えば、広辞苑を出している 岩波書店 は、刊行70年を迎え、「若返り」を重ねてきたと自ら述べています。
また、辞典を出している他出版社、たとえば 三省堂 も長年辞書出版を主軸にしています。
ただ、辞書という「中型・大人向け紙媒体」の分野が縮小していることを踏まえれば、出版社として辞書にかける投資・収益構造を見直さざるをえず、出版界全体が変革期にあると見るのが自然です。
3.辞書の未来――デジタル化/用途変化/価値転換
さて、「辞書の未来は何か?」という問いについて、本稿では以下の視点から整理してみます:デジタル化、用途の変化、そして価値の転換。
(1)デジタル化・媒体の変化
紙媒体の辞書から、電子辞書端末・スマートフォン・タブレット・ウェブ辞書へと“引く手段”は確実に変化しています。先述の通り、日本の電子出版・電子辞書の流れは CD-ROM → 家電辞書端末 → モバイルアプリという時間軸をたどっています。
この変化が示唆することは、「辞書とは単に冊子を引くものから、検索・連動・常時アクセスできるサービスに移る」という流れです。
辞書出版を専門とする論文でも、「頻繁なデータ更新」「検索データの充実」「辞書データを補完する拡張データ」「デバイス性能を利用した機能開発」という4つが鍵になると提案されています。
つまり、「紙で10年に1回改訂」という従来モデルでは、デジタル時代のスピード・利用形態に追いつきにくいというわけです。
(2)用途・ユーザー像の変化
辞書を使う目的やユーザー像も変わってきています。昭和時代は「何か分からない言葉があったら辞書を開く」という使い方が普通でしたが、令和では「スマホで即時検索」「ウェブで意味確認」「翻訳・語句連動機能付き辞書」「語彙ツールとして利用」など、用途が多様化しています。
また、教育現場でも「辞書を引く」という活動そのものが課題化し、「辞書を引ける子に育てる」「辞書の使い方を教える」ことが重視されてきました。紙辞書を使った訓練は依然価値がありますが、「スマホ・タブレットを使って引く」「辞書以外の言葉・用例検索も併用する」という変化が見えます。
このため、辞書出版社も「語彙・言語の知見を提供するプラットフォーム」「辞典データを活用したアプリ・サービス」「学習・教育用機能付き辞書」など、従来とは違った形での価値提供を模索しています。
(3)価値の転換――情報のストックから活用へ
辞書が持っていた「この紙を持っていれば、知っておくべき言葉が収録されている」という価値は、今やインターネットや検索エンジン・ウィキペディアなどが手軽に立ち上がる時代になって、相対的に変化しています。
それゆえ、「辞書とは知識をストックするもの」から「知識を活用・検索・発見するもの」へと価値がシフトしつつあります。
例えば、辞書アプリであれば「全文検索」「関連語句一覧」「用例検索」「語源・成り立ち」「画像・音声・動画との連携」など、“引く”こと以外の機能を備えることで、辞書ブランドは生き延びる可能性があります。実際、広辞苑第七版アプリでは「カラー画像4,500点」「図版2,800点」を収録と紹介されています。
また、辞書出版社にとっても「データベース」「語彙・言語資源」「辞書編集ノウハウ」という知的財産をどう再活用するかが、今後のカギでしょう。
(4)将来像のシナリオ(私見)
以上をふまて、私なりに辞書の未来を3つのシナリオにまとめてみます:
- デジタル・常時アクセス型辞書の主流化
紙を“補助”に、ネット/モバイル向け辞書サービスがメインになっていく。例えば、クラウド辞典、学習支援付き語彙データベース、教育機関向けサブスクリプション型辞書など。 - 辞書ブランドの再定義と用途特化化
辞書出版社は「辞書を売る」だけでなく、「辞書データを活用した語彙教育サービス」「言語データ提供ビジネス」「言語AI支援(語義解説・例文・翻訳連携)」といった方向へ拡大する可能性が高い。 - 紙辞書の“コレクター/教養用途”としての残存
紙辞書そのものが消えることはないでしょうが、かつてのような「教科書的必携品」という位置付けから、「書棚に置く教養・象徴的ツール」「編集版・美装本・限定版的用途」へと変化するかもしれません。
こうしたシナリオを踏まると、「紙版が縮小しても辞書そのものが消えるわけではない。むしろ“どう使われるか”“どこに価値を持たせるか”が変わる」ということがキーポイントです。
4.私からのまとめとブログ的メッセージ
さて、学び手・読者・教師(あなたが高校教師という立場であることも踏まえ)として、辞書とどう向き合えばよいか、少しだけ提言をしたいと思います。
- 辞書を「参照ツール」から「思考ツール」へ昇華させる
昭和の紙辞書では「意味を調べるために引く」という受け身的な使い方が多かったと思います。令和では「言葉を掘る」「語源や用例を考える」「新語・世の変化を意識して語を扱う」など、辞書を能動的・探究的に使う姿勢が大事です。教師として生徒に「今日はこの語の用例を探そう」「この言葉と似た言葉・反対語を引いてみよう」といった課題を出すのも有効です。 - 「紙も持ちながら、デジタルも使う」という併用姿勢を持つ
紙辞書は「じっくり読む」「章を飛ばして眺める」「言葉の世界を手触りで感じる」という価値があります。一方で、アプリ・電子辞書は「即時検索」「例文・関連語のリンク」「拡張データ活用」という強みがあります。どちらかを捨てる必要はなく、使い分け・組み合わせが今後の辞書活用として理想です。 - 言語・語彙の「変化」に敏感になる
辞書は言葉の“今”と“変化”を記録するものです。令和時代、SNS・ネット文化・グローバル化の影響で語彙・用法は急速に変わっています。「この言葉、辞書に載ってるかな?」「載っていなかったら載せるべきかな?」という視点を、生徒とともに持つことで、辞書を“生きた道具”として扱えます。 - 辞書出版・言語資源の価値を理解する
あなたが教育に携わる立場として、辞書という「言葉を整理し体系化し、誰でも使えるように編む」営みがどれほど大変かを知っておくことは、生徒にも言葉を大切にする姿勢を伝えることになります。辞書出版社が“元気か”という問いには「厳しい環境だが、今も挑戦中」という答えが妥当でしょう。そのため、我々利用者側が辞書をただ“当たり前に使う”だけでなく、“どんな辞書があるか・どう使われているか”を意識することは、言語文化を支える意味でも重要です。


